『CLOUDでビジネスを変える!』第2弾です。今回のテーマはデータバックアップ。グループ規模からエンタープライズ規模までさまざまなソリューションが存在しますが、大事なデータを守るという前提のためか、概ねコストは割高です。
さらにバックアップの運用管理は、資金に余裕がある場合でも面倒が多いのでIT部門の負担も大きいのが実情でしょう。ましてIT専任担当のいない中小企業では言わずものがな。筆者の会社も一度大失敗しているので、その失敗談を交えながら、運用管理がほぼ必要のないクラウドを使ったバックアップ方法を紹介します。
NASとRAIDがトレンド
弊社のバックアップシステム失敗談の前にバックアップの基本的なトレンドであるNASとRAIDを説明しておきましょう。
ネットワークハードディスク(NAS)とは、この外付けのハードディスクを進化させたもので、ケーブルを直接パソコンとは繋がず、ご家庭や会社のネットワーク(LAN)に接続して使います。ネットワーク上にハードディスクを設置することで、複数の人がデータを保存したり、読み込んだりすることができるようになり、保存スペースを共有できるのが大きな特徴です。~I-O DATAより
RAID(Redundant Arrays of Inexpensive Disks、レイド)と は、複数のHDDをひとつのドライブのように認識・表示させる技術です。万が一のHDD故障時にもデータ復旧・アクセスを可能にする安全性の向上や、複数HDDへの分散書き込みによるデータ保存の高速化など、RAIDモード毎に特長があり、用途に合わせて様々なストレージ構築が可能です。 特にビジネスシーンなど、高い信頼性を必要とするデータのストレージとして利用されています。~BUFFALOサイトより
要するにデータの活用・保存としては、NASがスマートデバイスやノートPCなど、無線LANで利用する機器にも向いており、柔軟なアクセス権の設定など利便性が非常に高い方法であるけれど、データが一極集中するので、HDDのクラッシュなどデータ損壊の危険性が高まる。そのリスクをRAIDで解消するのがバックアップの最強タッグということなのです。
ローエンドのNAS(RAID機能)導入したが?
弊社(iTEM)の本社では、Windowsのネットワーク機能を使った有線LANでホストPCにある業務データをクライアント(デスクトップPCやノートPC)と共有していました。データのバックアップは、ホストPCにUSBで接続している外付けHDD。ザ・中小企業バージョンである冗長化なしのローカル単一バックアップでした。
初期のバックアップシステム |
当然、これではちゃんとしたデータ管理やバックアップが行えないだろうという事とホストPCへの負担も大きいので業務で利用する共有データをNASに移行することにしました。
NAS(RAID)のバックアップシステム |
この頃から無線LANもハイスピード化されモバイルクライアントも導入したのでNASは、最適なセレクトであったと自負していましたし、従業員からの評判も良かったので初期段階では成功したといってもよいでしょう。
まあ、導入段階で、RAID設定する際、2TBのHDDを2台で3TBのRAIDを組んだのですが、フォーマット(初期化)に7~8時間かかったのには絶句しました。また、購入したNASに初期不良があり、返品・交換、再設定、再々設定など稼働させるまでに予想以上の労力がかかったのは想定外でした。
そして運命の日がやってきます。NASを導入して1年と1週間くらいたったある日、NASへアクセス出来ません。NAS自体からもエラーアラートが出ていてどうにもならないので、メーカーサポートへ電話すると、どうやらHDDは無傷ながらRAIDの基板が壊れてしまっているとのこと。
では、新しい基板に交換して欲しいと依頼すると保証が切れているので有償になるのと、RAIDの基板が代わるとデータも復旧できないと言われてしまったのです。
結局、NASは廃棄。RAIDを組んだHDD内にある業務データは、データレスキューに依頼しないとサルベージ出来ないという始末。RAIDを過信していたのでローカルバックアップも取っておらず多大な出費を強いられることになりました。
その金額は約55万円(NAS購入費40万円、データサルベージ費用15万円)
NASは、お釈迦になったので1年間にかかったバックアップ費用は50万円以上という惨劇。従業員10数名の中小企業にはイタすぎる出費です。
もう2度とRAIDは使うまい
正直、筆者はIT企業のプロモーションを生業としていますのでITに関しては多少詳しく、このバックアップシステムのチョイスには自信あったんです。まさか、HDDより先にRAID基盤が逝ってしまわれるとは…
「RAIDなんて飾りです。偉い人にはわからんのです。」
さて、そうはいってもバックアップシステムを初期段階に戻すことも出来ず、これ以上の多額の出費もできない。RAIDも信用できない。費用や管理の手間をかけずに新しいバックアップシステムをどう構築すべきか考えました。
熟考した結果、選んだソリューションがオンラインストレージサービス「SugarSync」。任意のフォルダ内のデータを自動的にクラウド上に保管・同期を取ってくれるクラウドサービスです。
SugarSyncの機能で特筆すべきポイントは、同期したいフォルダ内のデータが追加されたり更新されたり、削除されたりするとクラウド上でも同じフォルダの状態を自動で作成(同期)してくれるところ。しかも5世代前まで復元が可能なのです。
筆者は、この自動同期する機能を手間いらずのバックアップに適用できないかと考え、構築した新しいバックアップシステムが下図の構成。
クラウドを利用した自動バックアップシステム |
この頃からギガビットイーサなどLANのスピードも高速化されPCの性能も大幅に向上してきたことから、もう一度初期のバックアップシステムのようなホストPCに業務データを置き、有線・無線LANでクライアントと共有するのを基本としました。
異なる点は、バックアップを2重化したこと。ホストPCの共有データをローカルレイヤでは外付けHDDにエージェントソフトを利用して自動定期バックアップを行いオンラインレイヤでは、クラウドサービスの『SugarSync』にリアルタイム自動同期させました。
定期バックアップとリアルタイム自動同期 |
SugarSyncは本来、ファイル同期サービスなので、通常ならネットワーク越しにさまざまなクライアントデバイスが接続しにくるのですが、弊社の場合は自動同期を行うバックアップアーカイブとして使用したのです。
利用料は500GBの大容量で、たったの5万円弱(年間)*。前述のNAS(RAID)は、無駄な出費を含めて1年で55万円。新バックアップシステムの11年分のコストです。*2016年からサービスが拡充されて現時点では利用可能容量が1TBになりました。
業務効率化に活かせるメリットも多数
このSugarSyncを使った弊社の新バックアップシステム。実は、本来の機能を活用してペーパーレスやコミュニケーション効率化など業務の効率化にも活用しています。
NAS(RAID)を使用したバックアップシステムは、バックアップ以外でのメリットは見出せませんでしたし、今の状態から思えば、運用管理の手間がかかりすぎるという事やトラブル時のリスクや実害も大きい。そして何よりも人的リソースをそれなりに割かないと維持できないというのが問題でした。
弊社のようなITにそれなりに精通していても規模は零細企業。IT運用に人的リソースを割く余裕はありません。しかし、厳しい競争に勝ち残るには、IT武装してサービスの向上やコストダウンを進めていく必要がある。このジレンマを気持ちよく解決してくれるのがクラウドサービスだというのを今回のバックアップ失敗の件で思いっきり実感した次第です。