お役所仕事(おやくしょしごと)とは
・形式主義に流れ、不親切で非能率的な役所の仕事振りを非難していう語(コトバンク)
・日本の政府、省庁、役所、行政機関において、公務員や政治家が体力や精神を疲弊する事無く、自分たちのみ安定した繁栄をもたらすためにあみ出された優れたシステムの事(アンサイクロペディア)
役所に手続き行くと不快な思いをするのは、なぜか?
役所に行くことは、非常にストレスである。意味のわからない面倒な手続きで貴重な時間を浪費させられるし、何よりも杓子定規な窓口担当者の対応が不満や怒りを増幅させる。所得証明書や住民票の請求など役所へ各種手続きに出向いた際、少なくない確率で不愉快な思いをすることは、多くの方が共感できる事象だと思います。
さらに乱暴にいえば、役所の人間は、住民が被る不利益に関して微塵も配慮がない。自分たちの過失で申請手続きが履行されず、当該住民が損をするとしても他人事である。「生活保護の水際作戦」などが顕著な具体例だ。そうです。役所の窓口は上長がやれといえば、平気で違法行為を行うのです。
こういう行政側の対応について、住民としては、素直に納得することは難しい。どうして役所の窓口に行くと不愉快な思いをするのか?
例えば筆者が、私立幼稚園就園奨励助成金の申請のため役所に所得証明を請求する手続きに出向いた際、こういうやり取りがありました。
筆者:幼稚園の保育料の件で、所得証明をお願いします
窓口:世帯主と奥様の証明が必要です
筆者:えっ?昨年は私(世帯主)だけでよかったのですが、何か変更があったのですか?
窓口:いえ、特に変更はありません
筆者:家内は専業主婦なので所得はありませんが、それでも必要なのですか?
窓口:はい。そうです
この申請は、今年で3回目になります。過去2回は、配偶者の所得証明は必要ありませんでした。この誤解の原因が何だったかは失念しましたが、結論としては、やはり筆者(世帯主)の所得証明だけでよかったのです。
このとき、クレーム的なやり取りはありませんでした。しかし、筆者の頭の中で役所と住民のギャップが生じる明確な要因が浮かび上がったのです。
【窓口業務に対する役所視点の疑問】
・住民の目的に留意せず、自分の担当する業務範囲で対応している?
・住民の話をあまり聞かない or 確認しない?
・イレギュラーの可能性を考慮しない?
住民は何らかの目的があり、それに必要な申請書や書類を役所へ取得しに行くのに対して、役所の窓口担当者は、自分が担当する範囲内の業務のことのみを考えているから、双方のギャップが生じるのは必然ということに確信を持ちました。
この役所の捉え方が、なぜ問題かというと、例えば、レストランに食事に行く目的が、単に栄養補給のみという人がいるでしょうか?
程度の差はあれ、居心地の良い空間・良質な対応・おいしい料理といった複合的なサービスを求めているはずです。また、忙しい中、空腹を満たしたい場合なら、ファーストフードや立ち食いそば屋のように手早いスマートな対応が求められます。店舗側はこれら客のニーズをかなえるために日々研鑽を続けています。
住民も役所に対してレストランやファーストフードほどのサービスは望んでいなくとも、目的に必要な書類請求や各種手続きをスムーズに滞りなく処理してほしいというくらいは求めているのではないでしょうか。
縦割り組織の行政に顧客視点を望むのは無理がある?
世間の厳しい風当たりを受け、役所はサービス業である、住民はお客さまであるなど、役所も業務改革に勤しんでいると思いますが、あまり期待できる効果は出ていないようです。そもそも組織の運営が縦割りになっているので、住民目線で業務を遂行したり、部署をまたいだ横断的な対応を行うのは構造的に難しいのではないでしょうか。
役所の最大の欠点は、縦割り組織の運営で業務が分断されているということだと思います。部署間、担当間、窓口とホームページ等々、すべてが分断されて連携されていないのです。
分断されてると住民に対してどういう不利益をもたらすのか我が町の住民票の写しの取得例で検証してみましょう。
我が町の住民票の写しの請求についての説明をホームページで調べると下記画面の様な情報が掲載されています。
この情報だけをみても役所が如何に住民の目線でサービスを考えていないことが一目瞭然です。まず、情報の掲載順がおかしい。
住民票の写しを求めている方が、窓口で請求できないケースは、どういうことが考えられるでしょうか?
そう、印鑑や身分証を忘れてくることですね。
このページで一番目立つように、あるいはトップに掲載するべきなのは、「住民票の写しを取得するために必要なもの(印鑑、身分証明書)」という情報なのです。
また、請求書の記入例がPDFや画像などで掲載されていれば、印鑑が必要であることが視覚的にも認識できます。このとき、記入例はリンクではなくビジュアルをそのまま閲覧できる状態が望ましいです。
大阪市の住民票の写し(世帯一部)請求書の記載例 |
次に、住民票の写しを手に入れる手段として役所の窓口以外では、「コンビニ交付」があります。マイナンバーカードと公的個人認証やカードアプリ認証を取得しているという前提になりますが、複数の取得手段がある以上、それもわかりやすく記載しておくべきです。
加えて、窓口で取得できる曜日や時間なども明確に表示する必要があります。
この住民票の写しの請求に関するするページだけ見ても、役所は「住民票の写しの請求」という情報だけを掲載していますが、住民にとっては「確実にスムーズに住民票の写しを取得する」情報が必要なのです。つまり、我が町のホームページには住民が必要とする情報が適切に掲載されていないのです。
さらに分断されている問題として、ホームページに掲載されている情報を役所の窓口が把握していないことがあります。住民が事前にホームページで調べてきていることが窓口で通用しないという悲劇ですね。これは、ホームページの情報が古い場合や間違っている場合もあるでしょうが、大半の場合は、ホームページの運営と現場窓口の情報共有不足が主な原因です。
レコメンド(Recommend)という概念をもつ
このように縦割りで分断された組織である役所に住民(顧客)視点で業務を行うようにすることは、至難の業であることがわかると思います。
役所で働く人達が、自分たちの業務が住民の利益になるようにするということを想像するには、あまりにも酷な環境であるといえるでしょう。
では、役所が住民目線で業務を行えるように、組織を横断する対応を可能にするためには、どうすればよいのでしょうか?
問題点は大きく2つあります
(1)住民目線を理解し、適切な対応をどのように見出すのか?
(2)ホームページに掲載する「住民が必要としている適切な」情報の最適化をどう行うか?
これら2つの問題点を解決するためには、「レコメンド」という概念を学び、導入していくことが最短の解決策であると考えます。
レコメンドとは
顧客の好みを分析して、顧客ごとに適すると思われる情報を提供するサービスのことである(weblio辞書)
レコメンドを実践した著名な成功例は「amazon」です。amazonは、サイト訪問客の行動情報(閲覧や購買)をベースにレコメンデーションを行うという仕組みを導入し、顧客の好みや嗜好にあった商品を提示、購入意欲がある顧客に対しては転換率を上げられるアプローチを行う事を可能にしました。顧客は探さなくとも欲しい商品が提示されるため、サイトへのロイヤリティも高くなるのです。
レコメンドのメリットは、数多くのデータによって傾向値を得ることができるという点です。得られたデータをさまざまなフィルタにかけることによって多くの最適解を導き出すことも可能となります。
しかし、規模の小さい自治体のホームページから得られる閲覧履歴などの情報量では、レコメンデーションを行うには情報量が少なすぎます。やはり、ICTを利用して窓口業務を可視化し、データを集める必要があります。
規模が小さい自治体がレコメンデーションする手段として、当サイトではGoogleの無料サービスを活用する方法を紹介します。
Google Formsを利用した業務の見える化
レコメンデーションを実現させるためには、まず業務のインシデントを記録・蓄積する必要があります。今日の窓口業務は、住民票の写しの請求が10件で使用目的は免許更新が3件、不動産購入が2件、印鑑忘れた人が2人、クレームが2件などといった情報をデータとして記録・蓄積していきます。
集まったインシデント情報から、窓口業務の対応は何が一番多いか?請求者のリテラシーはどの程度か?どういった事でトラブルやクレームが起こるかなどが可視化されます。
可視化することで、どこに問題点があり、それをどのように解決していくかといったレコメンドを見出すことが可能になります。
これら日常窓口業務の履歴を記録するツールとしてGoogleの無料サービス「Forms」や「スプレッドシート(Excelのようなもの)」を活用するのです。
アンケート集計が可能なGoogle Forms |
簡単な集計をグラフで見ることが可能 (設問や回答はダミー) |
インシデント情報として入力する項目は、現場への労力付加もかかるのでなるべく少ない方が良いですが、これを日々継続していくことで、非常に有益な情報が蓄積されます。
さらにFormsで蓄積された情報はCSVファイルとしてダウンロードできるので、別途GoogleスプレッドシートやExcelで細かな分析や集計が可能になります。
例えば、半年継続した集計・分析すると、下記の様な結果が出たと仮定します。
窓口で最も多いのは「住民票の写しの請求」で67%を占める
印鑑や身分証明書を忘れてきた人は28%
いちから請求の仕方を説明した割合は61%
クレーム件数は5%
クレームになった要因は、説明不足40%、言動28%、態度25%、その他13%
同時に所得証明を請求した割合42%
この分析結果を基に役所は下記の様な改善を行うことができます。
・住民課の窓口を役所入り口の一番近い場所に移動する
・住民課の配属人数を増やす
・住民課の窓口に「住民票の請求には印鑑と身分証明が必要です」と目立つ張り紙をする
・請求書の記入例を窓口・ホームページ双方で閲覧できるようにする
・ホームページのTopページに住民票の請求メニューを大きく掲載する
・住民票の写しの請求ページに所得証明の請求ページのリンクを目立つように設置する
・クレーム発生率が高い窓口担当者への指導強化や配置転換を検討する
インシデント管理で業務改善するのは、民間の接客業では一般的な手法です。医療や介護業、建設業などだと「ヒヤリハット」ともいわれる場合もあります。いずれもハインリッヒの法則をベースにした問題解決法です。
レコメンドという切り口でインシデント情報を収集・蓄積するのにGoogle Formsを活用すれば、ホームページの導線やメニュー配置にも応用できるのが今回の提案のポイントであります。
余談ですが、これらGoogleのクラウドサービスを自前のサーバーで構築した場合、数千万から数億円規模のコストがかかります。それが規模問わず即日・無料で利用できるのですから活用しないのはもったいないですよね。